TEDの動画は見たことありますか?
NHKの番組「スーパープレゼンテーション」でTEDトークをみることができたり、「TED: Ideas worth spreading」のサイトで公開されている動画を見ることができますので、まずはチェックしてみてください。英語学習としてもよく紹介されるのでご存知かもしれませんね。
TEDトークは、どれもその世界に引き込まれ、意識の変革や創造性をあたえてくれます。私はiPhoneのPodcastで購読して空いた時間にみていたりします。そのTEDトークには人を魅了する秘密があるようで、巧みなスピーチテクニックがふんだんに盛り込まれていることをしりました。
本「TEDトーク世界最高のプレゼン術」は、そのトークのテクニックを解き明かしてくれています。
その中で題材として取り上げられているTEDトークの動画をいくつかピックアップして、そのトークのどこが抑えておくポイントなのか記録します。本を読みながら見ていただくと便利かもしれれません。
相手の心を掴む欲求をとらえる
人の心を掴むには、人間のもつ欲求を知っておかなければならないでしょう。アメリカの心理学者 アブラハム・マズロー(Abraham Harold Maslow, 1908年4月1日 – 1970年6月8日)による「マズローの欲求段階説」に基づくと、一般的に生理的欲求と安全欲求が満たされると心の奥深くから4つの欲求が生じます。そこをヒントにトピックを選んでみましょう。
TEDでは、トピックとして扱いにくそうな「欲望と利己の欲求」のトークもあります。ヘレン・フィッシャーやメアリー・ローチが性に関するプレゼンをしています。
ヘレン・フィッシャー氏が語る「人が恋する理由」
メアリー・ローチ「あなたの知らないオーガズムに関する10の事実」
バラク・オバマ「勝利演説」
バラク・オバマは「Hope and Change(希望と変化)」をコアメッセージとして掲げていました。聴衆の心をつかむには、まず彼らが立ち向かうべき現状という「敵」を作り、今は手が届かなくても少し努力すれば明るい明日が約束されていると、後押しすることが大切です。これが第4の欲求です。
一度聞いたら忘れない!キャッチフレーズを作る
サイモン・シネックは、”ゴールデンサークル”という概念をとても説得力のある説明にしています。彼のコンセプトは数十年前に流行った、企業と従業員が共有すべき価値観や行動指針を明文化した”ミッションステートメント”の基礎となったもので、決して新しいものではありません。なぜ説得力があるのでしょうか?
サイモン シネック: 優れたリーダーはどうやって行動を促すか
サイモン・シネックはトークの手法の一つとして、コンセプトを記憶にのこるキャッチフレーズに要約しています。「Start with Why (WHYから始めよ!)」の3つの単語に転換し、聴衆の心に深く刻み込まれるまで繰り返すことで自分のアイデアが広く伝わるようにしているのです。
サイモンは、こうした印象的なフレーズを他にも「Start with Why」を含め3つ使っています。
- Start with Why
(WHYから始めよ!) - People don’t buy what you do, they buy why you do it
(人は「何を」ではなく、「なぜ」に動かされるのだ) - Work with people who believe what you believe
(あなたが信じることを信じてくれる人たちと働きなさい)
Whyではじまる質問
もう一つ注目する点があります。冒頭で「Why(なぜ)」ではじまる質問を投げかけていることです。「Why」ではじめる質問をすることで聴衆にインパクトをあたえることができます。また彼のように連続して質問を投げかける場合は注意が必要です。
どの質問に対しても根本には同じ答えがなければなりません。全く関係の無い質問を連続すると聴衆の頭の中は混乱してしまいます。
スピーチは最初の10秒できまる!
聴衆がもっとも集中してきいているのはスピーチが始まって最初の10~20秒間です。それから、今日の夕食何たべようかな?明日は何時に予定はいってたけ?と徐々に意識が別の方向に向いていきます。聴衆の心をつかむにはまず「個人にまつわるパーソナル・ストーリー」を語りましょう。
パーソナル・ストーリーを語る上でのポイントが5つあります。
リチャード・セント・ジョン「成功者だけが知る、8つの秘密!」
リチャード・セント・ジョンのTEDトークを聴いて、パーソナル・ストーリーの効果を体感してみてください。目の前にその光景が浮かんできませんか?
もうひとつ注目するのは、彼のトークが3分と短いことです。でも、あなたの頭にはその光景が描けていますよね。子細な情報を割り当てられた時間に盛り込むことが大切です。
感情を誘発する!ショッキング・ステートメント
ショッキング・ステートメントとは、衝撃的な事実の提示です。主に統計値についての言及するケースがほとんどですが、一般的な社会通念に意義を唱えるような、力強い意見を述べるケースもあります。これによって聴衆の感情を誘発し注意を引きます。
ジェイミー・オリバー 「子ども達に食の教育を」 (TED Prize授賞講演)
ジェイミー・オリバー は、まず生と死に関わる衝撃的な話をしました。すると聴衆は「なぜこんなことが起きているのか?」を知りたいと次の言葉を待つようになります。
聴衆のテンションをコントロールするプレオープニング
時に聴衆のテンションが高すぎたり低すぎたりすることがあります。そんな時は、プレオープニングで聴衆のテンションを操りましょう。
ケン・ロビンソン「学校教育は創造性を殺してしまっている」
感動的な話に衝撃を受けるにも息抜きがないと辛いものです。ケン・ロビンソンは、聴衆に一息つかせようとユーモアのあるプレオープニングを披露しています。最初の30秒で笑いをとり、一気に聴衆を引きずり込むことが重要です。
さらにもうひとつ、ケン・ロビンソンは”オープニング・コールバック”というテクニックを使っています。オープニング・コールバックとは冒頭で大受けしたジョークを最後にまたもってきて話を終わるという手法です。
オープニング・コールバックを使うには、その場で思いついたという感じがなければいけません。
デブ・ロイ「初めて言えた時」
デブ・ロイは、本題にはいる前にある特定の状況や環境に身をおいてると想像してほしいと、聴衆を誘っています。
スピーチには3つのタイプがある
スピーチには様々な話型がありますが、なかでも効果的なスピーチの型が3つあります。
- [現状-問題提起-解決策]型
- 時系列型
- アイデア・コンセプト提起型
ダニエル・ピンク 「やる気に関する驚きの科学」
ダニエル・ピンクは、[現状-問題提起-解決策]型のスピーチに当てはまります。本「TEDトーク世界最高のプレゼン術」で[現状-問題提起-解決策]に分けている部分を以下に引用しました。
- 現状
- 記録にあるかぎりほんとうの時代において、経営者は外発的動機づけである”If-Then”式の報酬(アメとムチ型報酬)に頼って、労働者のやる気を引き出してきました。このやり方は、機械的作業においてはたしかに効果を発揮してきました。
- 問題提起
- これとは対照的に、知識労働者はやりがいなど内的報酬によって大いにやる気をかき立てられます。実際のところ、金銭的なインセンティブのような外的報酬が実際には創造的作業の生産性を下げているのです。
- 解決策
- 未来のリーダーたちは、労働者のやる気向上のために、自主性、熟練(成長)、目的を軸とした新たなオペレーティングシステムをインストールする必要があるのです。
エリザベス・ギルバート “創造性をはぐくむには”
映画化もされた「食べて、祈って、恋をして」の著者エリザベス・ギルバートは、時系列型のスピーチをしています。古代ローマから時代の流れに沿って、人々が創造性を受け入れてきたかが語られています。時系列型はトークの流れを作るのに非常に有効な手段です。
3つ目の「アイデア・コンセプト提起型」は前述した、リチャード・セント・ジョンのTEDトークのような短い時間で伝える時によく用いられます。重要なことを箇条書きにしてそれを読み上げた感じと捉えたらわかりやすいでしょうか
わずか3分34秒の間に8つの秘密が盛り込まれているのを確認してみてください。
本論をつなぐコールバックテクニック
冒頭部から本論につなぐには”焦らし”のテクニックで十分ですが、本論の中で一つのセクションから次のセクションへとつなぐには、セクションの最後にトークを一度振り返る、まとめをもってくる必要があります。
チママンダ・アディーチェ: シングルストーリーの危険性
イギリスの本を読んで育った体験を語り、「・・・アフリカの本を読んで考え方がかわりました」というフレーズで次のセクションに移っています。このとき、声のトーンも変わります。
アフリカとアメリカ、イギリスの文学は対照的だという話をする信号を聴衆に送っているのです。
スピーチの締めくくり
スピーチの最後は聴衆にものの見方を変えさせる、あるいは行動させる最後のチャンスです。スピーチが結末に向かっていると聴衆に信号を送ると関心は一気に高まります。
ブレネー・ブラウン:傷つく心の力
注目してほしいのは、スピーチが結末に向かっていますよというシグナルを送るために、ブレネー・ブラウンはつなぎのフレーズをひとつではなく、3つ使っているという点です。
「でも、もうひとつ別の方法もあるのです」
「・・・締めくくりといたします」
「これは私がこれまでの人生で見つけたことです」
聴衆を退屈させない!スピーチの語り
聴衆を退屈させないでスピーチをするにはストーリーを語ることです。ストーリーを語るには、冒頭、本論、結末のどこでもチャンスがあります。
マルコム・グラッドウェル、パスタソースと幸せについて
マルコム・グラッドウェルは、ストーリーを語るテクニックを2つ使っています。
- 熟年で少し奇抜な風貌なハワードが目に浮かぶようにしている(ストーリーテリングの”語らずに示せ”)
- ハワードをヒーローに据える(あなた以外の人をヒーローにする)
小学6年生にもわかる言葉えらび
平均的なTEDトークでは小学6年生でも理解できように言葉を選んで語られています。なので英語の学習にも注目を集めているのでしょう。
スティーブ・ジョブス 2005 スタンフォード
彼のスピーチには、”amazing(すごい)”や”incredible(信じられない)”といった「最高」を表す言葉がいっぱい詰まっています。
トークにユーモアを!自虐ネタは効果絶大
人は期待を裏切る展開や傷つきやすさをあざ笑うかのような”ひねり”が大好きです。
ジル・ボルト・テイラーのパワフルな洞察の発作
ユーモアを取り入れるのに最も簡単な方法は自虐ネタです。ジル・ボルト・テイラーは、自身に起きた脳卒中をどのように研究したかをかたっています。笑いを誘うテクニックとして、事実を大げさに語るとうまくいくかもしれません。コメディアンがよく大げさに表現したりしますよね
ハンス・ロスリング 最高の統計を披露
人は権威を少しばかりこき下ろす笑いも好きなようです。ハンス・ロスリングは非常に優秀な人々をユーモアの標的にしています。しかし、聴き手によっては反感をかうかもしれません。
あとがき
人に話しをするために学ぶだけでなく、冒頭からの話の組み立て方からユーモアの盛り込み方などはブログなどの書きものにも非常にためになる一冊でした。
キャッチフレーズの書かれた章からは、伝えたいことは簡潔に頭に残りやすい言葉にまとめるよう努めようと思います。そして、キャッチフレーズをできれば最低3回繰り返していきます。